だから何ですか?Ⅱ【Memory】
「・・・今日、」
「えっ?」
「夜・・・会えないんでしたよね?」
「・・・あ・・ああ、悪い。ほら・・クリスマスの企画の打ち上げ・・・ずっと延期しっぱなしだったから井田と小田と3人で飲みに、」
「・・・・浮気者」
「っ・・おいっ、」
「嘘です。嫉妬の念を感じまくりながら存分に楽しんできてください」
「おい、『嘘です』に続く言葉が噛み合ってなくないか?」
全然『嘘』になってねぇじゃねかよ。と非難するように目を細めるけど本気じゃない。
亜豆の非難だって、非難だけども本気じゃない。
それを分かっているから『おいっ』と額を軽く突いてクスリと笑って見せると、最後の一服だと煙草を吸い短くなったそれを灰皿に押し付けた。
余裕そうに見せて・・・結構限界。
元々煩悩と葛藤していた中だ。
いじらしい様な亜豆の気の引き方や横顔にうっかり本能の熱が上がって、それを振り切るように意識を煙草に移したに過ぎない。
なるべく亜豆から視線を逸らして。
今は・・・見るだけで欲情しそうだ。
どこまで阿呆な自分なのかと嘆いて詰っても引かぬ欲求や渇望は強すぎて。
そんな刹那。
カサカサと横から小さく響く音には意識を戻さざるを得なくて。
・・・と、言うより上手く意識の糸を引かれた。
引かれるまま振り返ればまさに口にチョコレートを指先で押しこんでいる亜豆の横顔が映って、カサカサの音の正体であった包み紙がふわりと風に舞って俺を横切っていく。