だから何ですか?Ⅱ【Memory】
座ったのは木製のベンチで、すぐに目の前にしゃがんできた姿には少しだけビクリと体が跳ねた。
相変わらず自分の前髪でその姿ははっきりとは捉えられず、更には鞄を漁って下を向いている彼の顔は明確でない。
でも、聞き取った声は若く、抱えられている時にも触れて捉えていた服はまだ新しそうなスーツであった。
強引に渡された鞄もまだ艶のある新しい物。
新入社員という生き物か?
入社早々の残業あけか早朝出社か、そんなところなんだろう。と結論を下したタイミング。
「ほら、コレまだ口つけてないから。口濯いで・・・そこの街路樹に還してあげなさい」
そんな風に手渡された未開封のミネラルウォーターと指差されたのはベンチ横に立つ銀杏の木だ。
つまりは濯いだ水を街路樹を潤す大義名分で吐きだせと。
そんな解釈をしながら遠慮なしにペットボトルを開栓し始める。
なんだか変な人だ。
変な人と言うのかお人よしというのか。
ここまで、当然の事ながら私は一言も発していないのに、御構い無しに自分の思うままを口にして行動する人。
相変わらず他人という抵抗感はあるけれど、施してくれる事に害はなく善意なのだろうから嫌悪は消えた。
それでも心を開くでもなく促されるままを受け入れ行動していれば。