だから何ですか?Ⅱ【Memory】




さすがに遅い。


入れ違ってもいいから行ってみるか。と足を動かし始め、歩きながら一応念の為のメールで一方。


【遅いから秘書課覗くぞ。入れ違ってたらそのまま会社前で待っててくれ】


そんな文面を送って暖かい社内に舞い戻る。


まっすぐに向かったエレベーターホールでは、帰宅した人間の方が多いと示す様に1階で留まっていたエレベーターが2台。


その内の一つに乗り込むと躊躇いなく秘書課のある階のボタンを押して、独特な浮遊感に身を任せた。


この時間に上に行こうという輩はいないらしく、止まることなくスムーズに目的の階まで上昇しゆっくりと動きを止めた小さな箱。


開いた扉から身を出していつもとなんら変わらない歩調で秘書課まで進んで中を覗き込んだ。


残業している人間が2人か・・・。


それでも求めていた亜豆の姿はなくて、やはり入れ違ったのだろうか?と小首を傾げていれば、



「お疲れ様です。伊万里さん」


「・・・お疲れ様です」



入り口で考え込んでいれば当然中の人間も気がつかない筈がなく、気がつけば目の前に距離を詰めてにこやかに声をかけてきた。



「亜豆ですか?」


「えっ・・あ・・まぁ、」



そりゃあアレだけ噂が立ってれば普通にそういう問いかけになるよな。


はっきりと、用があるのは亜豆にだろうと断定されているような言葉には苦笑いしか浮かばない。




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