幸せの種
「ごめんね、千花」
美麗は心の中で何度も謝った。
ママなのか、マンマなのかわからないけれど、ニコニコと話しかけてくる娘の声。
両手を開いて抱っこをせがむ、よちよち歩きの娘の姿。
天使のような寝顔。
娘を置いて、ひとりだけが幸せになろうとするなんて、母親失格だ。
それは美麗が一番よく分かっていた。
だけど、娘が一緒だと、一生幸せにはなれないのではないだろうかと考えた。
千尋はそれが分かっていたから、美麗の元から逃げた。
まだ高校を卒業したばかりで、いきなり養うべき家族が二人になるという、あまりにもハードモードな人生を、千尋が……いや、誰が進んで選び取るだろう。
千尋にとって美麗と子どもは、巨大な足かせだ。
美麗にとって千花が、そうであるように……。