幸せの種
発芽~高橋先生~
「髙橋さん、児童相談所からお電話です」
「はい、今出ます」
――またか。ああ、夏休みだから児相も忙しいんだな。
「ごめん、タイム。電話に出てからもう一度戻ってくる」
「え~っ! 髙橋先生が鬼だったのに! 鬼はタイムなし!」
「悪い。後で連続三回鬼やるよ」
児童養護施設・ちしま学園でカウンセラーとして働いている髙橋陽平(たかはしようへい)は、体育館から急いで職員室へ向かった。
「お待たせ致しました、髙橋です」
『すいませんね、度々。先週に引き続き今週もショートステイ予定のお子さんがいるので、引継ぎをしたいと思いまして』
「わかりました。いつがいいですか?」
児童相談所との引き継ぎが終わり、重い足取りで職員室へ戻る。
「ちーちゃん、また戻ってくるのか……」
引継ぎ資料に目を通し、深いため息をついた。
数年前から何度かショートステイしている、小学一年生の女の子だ。