幸せの種

園長室を出てから、わたしは廊下の隅に隠れた。

ミーナちゃんが園長室に入るまで、安心して園内を歩くことができないから。


少ししてから、山本先生に連れられて、むくれた顔をしたミーナちゃんが園長室に入っていった。

普通だったら大事な話の時はドアを閉めるけれど、ミーナちゃんと話をする時だけは、先生方は誰もドアを閉めない。

以前、脱走したことを山本先生に叱られたミーナちゃんが、叫びだしたことがあったから。

何もしていない山本先生に向かって『胸を触った、キスしてきた』と叫び、訴えてやると暴れた。

もちろんそれは言いがかりで、山本先生は『やれるもんならやってみろ、指紋でも唾液でも何でも提供してやる』と応戦した。

調べられたら困るのはミーナちゃんの方だから、それで黙ったけれど、先生方はそれ以来、ますますミーナちゃんを警戒するようになった。

園長先生もそうだった。


ミーナちゃんに向けて話す園長先生の声も、開いているドアから流れてくる。

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