幸せの種
「琉君がいない間、色々あったんだよ」
わたしは小さな声で今までの出来事を伝える。
ミーナちゃんのこと、学校のこと、先日遊びに来たコウ兄ちゃんのこと……。
「そうそう、やっと評定平均が、みんなの平均を超えたの!」
「お、すげー! やっぱり千花だってやればできるな」
「うん、自分でもびっくりしたよ」
「だから言ったろ、いい頭脳があっても、インプットしなきゃ使えないって。たとえ覚えたうちの何割か忘れても、それ以上詰め込んでおけば何とかなる!」
「そうみたい。なんかちょっと自信ついた! だからもうデコピンはやめてね。痛いから」
「おう、わかったよ。それじゃあ、デコピンの代わり」
入り口から見えないように広げて持った参考書の後ろで、琉君がわたしのおでこに自分のおでこをこつんとぶつけてきた。
高橋先生の家で過ごした夜、誓いあったことを思い出す。
突然のことに驚いて、わたしの心臓は口から飛び出そうなくらい、脈打っていた。
小さい頃なら微笑ましく見てくれただろうけれど、二人とも中学生になった今、そういうことをするのは……。
「みつかったら、大変だよ……」
「わかってる。だからこれでおしまい」
そう言ってわたしを見つめる目が、とっても優しい。
辛いこともあったけれど、良い一年だった。
来年も良い年になって欲しいと願いつつ、沸騰しそうなほっぺのほてりが静まるのを待った。