幸せの種
私が電話をかける時、琉君は大抵下校途中のバス待ちしている時間帯だった。
ほんの少しかけただけでも、どんどん減ってしまうテレホンカードの度数。
だから、いつも話す時間は一分以内だった。
それでも、声を聞けるだけで幸せになれる。
また頑張ろうと思える。
高校受験前日のこと。
受験会場の下見に来た私は、校舎内にあった公衆電話を見つけた。
スマホを持っている他の受験生は、公衆電話など見向きもせず、家族に「迎えに来て」などと電話をしている。
今が受験前に琉君の声を聞ける最後のチャンスだと思い、残り度数がたったの十になってしまったテレカを握りしめて、公衆電話の前に立った。
もう、暗記してしまった琉君の番号を押す。
すぐに繋がった。
『もしもし』
「私。今、受験の下見に来てて、高校の公衆電話からかけてるの。琉君は?」
『俺は入試前で学校が休みだから、自分の部屋にいる。だから大丈夫』
「うん」
『千花、頑張れ。信じてる』
「私も。ありがとう。頑張るから。またね」