幸せの種
受話器を戻して、周囲を確認する。
大丈夫、私のことは誰も気にしていない。
それに、ちしま学園からこの高校を受験する子は他にいない。
たったこれだけの会話で、もう度数が八になってしまった。
明日も帰りにかけるし、明後日の面接の後もかけたい。
卒業式の日もかけたいし、合格発表の日は絶対にかけなくちゃ。
残り度数を計算したら、ギリギリ間に合うくらいだった。
初めて使った時は、確か百五度もあったのに。
それでも、高校に合格すれば、私もスマホを持たせてもらえる。
そのためにも明日の試験を頑張ろう、そう決心した。
私の志望校の近くには、他に高校が二つある。
ひとつは工業高校、もうひとつは琉君が通っている高校。
だからバス停には、三校の高校生がずらっと並んでいることが多い。
もし、ここの学校に合格できたら、毎日琉君に会える。
スマホを持たせてもらえたり、自由に使えるお小遣いが毎月もらえたりと、少しずつ自由が増える。
それを励みに、受験勉強も頑張った。