幸せの種
予防接種?
そんなのは全然覚えていない。
「わからない。ママがちゃんと連れて行ってくれたとは思えないけど、おばあちゃんと一緒に病院に行った記憶はあるの」
『そうだよな。俺もわかんなくて、現場に入る前に一通り検査して予防接種受けたんだ。こんなことなら妊娠する前に全部検査しておくんだったな……』
「私も検査して予防注射を受けるべき、だよね?」
『だけど千花、妊娠中は風疹の予防接種を受けられないんだ』
「そんな……赤ちゃんのためなら何だって我慢するのに!」
それから、やや間があった。
『あのさ、赤ちゃんのために我慢して行ってこれないか? 千花の生まれ育った家に。そして、自分の母子手帳を確認するべきだと思う。風疹以外の予防接種や、かかった病気のことも知りたいし』
「……ちょっと、考えさせて」
『うん。どうしても無理だったら、園長先生か穂香先生に頼んで、間に入ってもらうっていう手もあるぞ』
「それなら、できる、かも」
『せっかくの嬉しい話なのに、辛いことを思い出させてごめん。だけど、妊娠中少しでも不安要素はない方がいいだろ?』
「うん。……覚悟を決めて、行ってくる」