幸せの種
病院からまっすぐ学園に戻り、園長先生と穂香先生に話を聞いてもらった。
妊娠したこと。
初期だから、まだ公表しないで欲しいこと。
自分の母子手帳を確認したいこと。
だけど、一人では怖くてあの家に戻れないこと……。
最後までじっくり話を聞いてくれた園長先生が、いつまでも変わらない穏やかな笑顔でこう言ってくれた。
「わかりました。まずは千花先生、おめでとう。……あのちーちゃんがお母さんになるなんてね。私はさしずめおじいちゃんになったような気分ですよ」
「園長先生……ありがとう、ございます」
穂香先生が涙ぐんでいるから、私も泣きそうになる。
「千花先生、いや、ちーちゃん。穂香先生もとっても嬉しいよ。知らせてくれて、本当にありがとう。母子手帳の件は、園長先生と穂香先生に任せてね」
穂香先生。大好きな穂香先生が、ずっとこの学園にいてくれて本当に良かった。
「……穂香先生、こんなに大きくなってからも、先生に迷惑かけちゃってごめんなさい……。でも、怖いの。怖くてどうしようもないの。あの家の、あの部屋に入ったら、せっかく忘れかけてたことがみんなフラッシュバックしちゃう……」
そう思っただけで、私はパニックに陥りそうになる。
青いカーテン、つけっぱなしのテレビ、こぼれたご飯とお味噌汁、それと……みんなの怒鳴り声。