幸せの種
千花は二年生だが、片仮名と漢字はほとんど書けず、平仮名すらたどたどしい。
生きるか死ぬかの毎日では、勉強どころじゃなかったのだろう。
「なるほど。ここへ来ても毎日辛かった、と。誰にお願いしても母親には会わせてもらえないとなれば、サンタさんに縋るしかないですね」
「ちーちゃんは前にも何度か短期入所したことがありますよね」
「はい。でも今回は帰る目処がなくて不安なのでしょう」
「……あんな仕打ちをした母親でも会いたいなんて」
穂香はつい、千花の母親を非難するような言葉を口にしてしまった。
自分でそれに気づいて、陽平に小さな声で「すみません」と詫びる。
陽平も苦笑いしながら小さく「この会話はオフレコです」とフォローしてくれたので、穂香はぺこりと頭を下げた。
「どんなに酷いことをされても、母親への愛着は残るものです」
「だって、ちーちゃんの母親、ちーちゃん達を放置して彼氏の家に入り浸ってたんですよ! 下の子なんてまだ一歳だっていうのに!」
小学生の千花はちしま学園へ入所したが、妹は現在、乳児院で暮らしているため、一家離散の状態だ。