幸せの種
千花は当初、外出もできないほど精神的に不安定だった。
外を歩くと嫌でも目に入る家族連れや、お母さんと手を繋いで歩く子ども達を見ては泣いていた。
ちしま学園のレクで動物園へ行っても、珍しい動物を見ている時間より、母親恋しさに泣く時間の方がずっと長かった。
「泣いても笑っても、動物園にいられる時間は一緒。ちーちゃんの幸せの種は、どっちの時間を過ごすほうが大きくなると思う?」
穂香は千花を抱っこしながら、サル山の前で静かに話した。
「……わらってるほう。でも、わらえないよ……」
「うん、知ってる。今は無理に笑わなくても大丈夫。だけど、気持ちを切り替えることも大事だよって伝えたかったの。この学園で生活しているみんなも、お母さんと離れて暮らしているんだよ。ちーちゃんがずっと泣いていたら、下の子達もみんな泣きたくなるかも」
「……それじゃあ、ほのか先生、おサルのエサちょうだい」
泣きながらもちゃっかり、サルのエサの自動販売機をチェックしていたところが子どもらしいと穂香は苦笑した。