幸せの種
穂香はこっそり自分の財布から小銭を出した。
「特別大サービスだからね。他の子には内緒だよ」
結局、集合時間までずっとサルにエサを投げ続けることで、千花は気持ちを切り替えることに成功した。
赤ちゃんザルを抱っこした母ザルにエサが届くよう、必死に投げていたのだ。
「ママがちゃんと食べないと、赤ちゃんを育てられないから」
そう言いながら、力いっぱいエサを投げる千花を見て、穂香はまた胸がいっぱいになった。
以来、千花が母親恋しさに号泣することはなくなった。
千花と学校の話をしていた穂香のポケットから、バイブ音が小さく響いた。
ごめん、と呟いてから確認すると、陽平からのメールだった。
「高橋先生、これから飛行機で帰って来るって。園長先生に知らせてくるね」
彼は園長にも連絡をしているはずだが、誰かが空港へ迎えに行かないとクリスマス会に間に合わない。
今日は行事用シフトであるため、職員の数は足りている。
穂香は自分が迎えに行くことを園長に伝え、了承を得た。
そして久しぶりに会えることを嬉しく思う一方で、化粧直しをしようにも化粧ポーチすら忘れてきたことに気付いて凹んだ。