幸せの種
真夏と言っても、北海道東部の夜は肌寒い。
二十度を下回る気温で、キャンプ場全体が夜露に濡れている。
児童養護施設・ちしま学園では、毎年恒例の宿泊行事があった。
小学生は市内のオートキャンプ場でキャンプ。
中学生は管内の山小屋を利用して登山をし、高校生は与えられた予算を使って自分で旅行する。
六年生の琉輝と四年生の千花が一緒にキャンプをするのは、今年が最後だった。
「千花、知ってるか? あのキャンプ場、蛍が見られるんだ」
「知らなかった! りゅうくん、見たことあるの?」
「ああ。トイレ行くふりしてこっそり出て行ったら、たまたま見た」
「いいなあ。わたしも見たい。連れてって!」
「仕方ない。連れてってやるけど、絶対見つからないようにするぞ。俺たち一回やらかしてるから、次見つかったらアウトだって」
「アウトって、何?」
「おやつ購入に連れてってもらえなくなる。好きなおやつが買えなくて、園長先生が選んだまんじゅうとかようかんになるぞ」
「えーっ! わたし、あんこはダメ」
「俺だってダメだ。だから行くなら絶対に見つかるな! いいな?」
「うんっ!」