幸せの種
キャンプへ行く前、琉輝は千花と約束をしていた。
学園にあった『昆虫図鑑』を眺めていた千花が琉輝に漢字の読みを尋ねた時、たまたま開いていたページにゲンジボタルが載っていたことがきっかけだった。
琉輝にとって千花は、守ってやらなくてはならない、可愛い妹のような存在だ。
他の学園の女子と違い、千花はほとんど自己主張をしない。
おっとりとしていて優しすぎるところがあるため、気の強い女子からはいいように扱われていることがある。
その度に室担の穂香先生が庇ってくれていたが、穂香先生が産休から育休に入り、さらに二人目を出産したことで、千花を上手に庇ってくれる女の先生がいなくなってしまったのだ。
女子棟は男子の立ち入りが禁止されているため、千花が女子棟にいるときの様子が琉輝にはわからない。
共有スペースである図書室や学習室の隅でこっそり泣いている千花を見かけては、何があったのか探りを入れ、千花をいじめる女子を牽制することしかできない。