幸せの種


琉輝がちしま学園へ来たのは、今からもう七年以上前のこと。

琉輝と母親はアル中の父親から虐待を受け、近所の人からの通報で児童相談所に保護されたのだ。

母親は父親からのDVを恐れ、誰も知り合いのいない、遠く離れたところへ逃げたと聞いた。

父親は逮捕された。


琉輝の父親は元々、研究者だったという。

ポスドク(博士研究員)として大学に残っている時に、大学生だった母親と知り合い、琉輝が生まれた。

いつまでも教授どころか助教授になれるあてもなく、そこに家族を養わなくてはならないという重圧が加わり、酒に溺れるようになったらしい。

父親の転落人生を目の当たりにした琉輝は、ひとつのことを学んだ。

学問だけではダメだ、ちゃんと収入を得られる仕事に就かなくては、と。



琉輝は入所したばかりの頃、ショートステイしていた千花と何度か遊んだことがあった。

彼女が長期入所することとなり、毎日泣いているのを見て可哀想に思った。

少しでも気が晴れるなら、と勢いで脱走計画に誘い、園長先生にこっぴどく叱られたことも今となってはいい思い出だ。


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