幸せの種

「それでりゅうくん、わたしね、こっそり持ってきたの」


夜露に濡れている芝生の上を早歩きしながら、千花がパーカーのお腹の中に隠しているものを出し、琉輝に手渡した。


「ライト、あった方がいいでしょ?」

「おう。よくこんなの、持ち出せたな」

「うん。部屋にあった非常用のだよ」

「これ、絶対にあった場所へ戻すの忘れんなよ」

「うん。わかった」


この計画を実行するため、千花なりに準備していたのだろうと考え、琉輝は嬉しくなった。


――千花は今まで生きてきた中で、何が一番嬉しかったんだろう。


琉輝が知っている千花は、要領の悪い甘えん坊で、苦手な勉強を頑張っている割に、成果に結びつかずに悩んでいる子、だった。

学園には時々慰問で有名人やスポーツ選手が訪れる。

我先にと有名人に群がる自己主張の強い子が多い中、遠巻きに眺めているのは琉輝と千花くらいだった。


琉輝と千花の共通点……それは、TVをあまり見ないことと、他者との関わりを極力避けていることである。

それと、一時帰宅できない、つまり、お盆や正月も帰省できない、学園以外に出ていける場所がない子どもであった。


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