幸せの種



長期休業中、児童養護施設の子どもの大半は、一時帰宅をする。

ほんの一日でも、半日でも帰ることができるだけで、子ども達は喜ぶ。

学園から全く出られない子は、ほんのわずかだった。


琉輝は家自体がなくなり、地元に肉親が誰もいないから帰ることは不可能だが、千花は市内に祖父母がいるのに帰らない。

不思議に思った琉輝が以前、理由を尋ねた時のこと。千花は無表情なまま、こう言った。


「わたし、おじいちゃんとおばあちゃんに言われたの。お前が生まれてきたせいで、みんな不幸になったって。だから、わたしはあの家にいられないよ」

「……チクチク言葉、なんてレベルじゃないな、それ。よく我慢してたな」

「うん。もう、なれちゃった。でもまたあの家に帰るのはいやだな」

「帰らなくてもいいんじゃね? 無理することはないし、学園にだって楽しいことはあるだろ」

「あるけど……わたしだけ楽しんじゃっていいのかなって思うことがあるの。妹は今ごろ、どうしてるんだろうって」

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