幸せの種
そして今、琉輝と千花はキャンプ場のはずれにある木道に来ていた。
ネイチャーセンターの明かりも消え、足元を照らすのは月明かりと千花がこっそり持ってきた非常用ライトだけ。
「転ぶなよ。ほら、ここの木道から落ちたらドロだらけになるから」
琉輝は右手にライトを持ち、左手を千花に差し出した。
千花は素直にその手に掴まり、琉輝からなるべく離れないようにして歩いた。
小学生が二人並んで歩くのがやっとの狭い木道が、延々と続いている。
「ねえ、りゅうくん」
「何だ?」
「わたし、大人になったらどうしよう」
「どうしようって……働いて、給料もらって、一人暮らしできればいいんじゃね?」
「働けるかな……。こんなに勉強できなくて、のろまで」
琉輝の歩みが止まった。
一緒に千花も立ち止まり、不思議そうに琉輝の顔を見る。
月明かりにぼんやりと照らされた琉輝の顔は、いつもと違い、とても大人びていた。
「働けるかな、じゃない。働くんだ。幸せになるには、お金が必要だ。お金をもらうには、働くしかない」