幸せの種
「働けば、幸せになれるの?」
「働かないよりは、幸せになれるさ。いや、働かなくても、誰かが生活できるお金をくれたらいいけど、俺達にそんな都合のいい『誰か』はいないだろう」
「それじゃあ、りゅうくんも私も、働かないと幸せになれないの?」
「多分。学園には一番長くても二十歳までしか居られないから、それまでにどこかで働いて給料をもらわないと」
「わたし、一人で学園から出るのも、働くのも怖いよ」
千花は琉輝の手をぎゅっと握り、すがりつくように近づいた。
まるで、琉輝の手が命綱であるかのように。
琉輝はそんな千花がいじらしく、自分が何とかしなくてはと思った。
「俺は、ここを出て自分の力で生活できるのが楽しみだよ」
「え? どうして?」
「自由があるから。好きなものを食べられる。好きなところに住める。毎日風呂に入れる。それから、好きなところへ行ける」
楽しそうに語る琉輝を横目で見ながら、千花は小さな声で「あ、ホタルだ」と言った。
木道の先に、小さな光がふわふわと浮いているのが、琉輝の眼にも映った。
「ホタルって、働かなくても幸せだよね。幸せって、何だろう……」