幸せの種
「高橋先生が前、俺に教えてくれた。ここにいる子ども達は、それまで不幸だったかも知れない。でも、高校を卒業したら、あとは自分次第で幸せになれるって」
「自分次第?」
「コウ兄ちゃんみたいに、大学へ行って大きな船のえらい人になることもできる。だけど頑張らなかったら、俺達の親と同じになっちゃうらしい」
「ママと同じにはなりたくない。カレシに振り回されて、たまに帰ってきてもおばあちゃんとケンカばっかり」
「俺だって。だから俺は絶対にちゃんと給料をもらえる仕事に就くんだ」
琉輝は捕まえていたホタルをそっと手放した。
他のホタルよりややゆっくりと飛んでいるそのホタルを目で追いながら、ぽつりと呟く。
「千花がどうしても一人で暮らすのが怖いなら、俺が迎えに行ってやる」
「え?」
「俺の方が二年先に出ていくから。千花と一緒に暮らすのも悪くないと思う」
「いいの?」
「もちろん。千花がそれでよければの話、だけど」
「りゅうくんの迷惑じゃなかったら、そうしたいな。約束だよ」
千花が笑った。
キャンプの夜、笑わせてやると言った約束を果たすことができて、琉輝は安堵した。
それと同時に、笑顔の千花を琉輝は本当に可愛いと感じる。
自分が守ってやらなくてはならないという、庇護欲がより一層大きくなった。
庇護欲だけではなく、他の感情も心の中にひっそりと息づいていたことを、琉輝が初めて自覚したのもこの時だった。