幸せの種
バタンと勢いよく閉められたドアの前で、わたしは泣いた。
わたしのせいで、妹に食べさせるご飯がなくなってしまった。
床に落ちたご飯を必死で拾い集め、お茶碗に戻す。
じわじわと床に広がるお味噌汁の上に、わたしの涙がぽたりと落ちた。
誰にも聞かせられないぐちを、そっとつぶやく。
「ちーちゃん、もう、しんじゃいたいよ。ごはんたべなきゃしねるかな……」
その時、妹がお昼寝から目覚める気配があり、振り返った。
大丈夫。まだ寝てる。
「でも、ちーちゃんがしんだら、いもうともしんじゃうかも」
わたしは、生きることが辛すぎて、なのに死ぬことも許されなかった。
わたしがこの家で学んだことは、自分を出さないこと。
ひっそりと、空気のように生きていれば、家族はみんなわたしのことを忘れてくれる。
空気に対しては、みんな怒りをぶつけてこない。
泣いていたら、空気にはなれない。
早く泣き止まなくてはならないのに、止められない涙としゃっくりを何とかしたくて、布団に潜り込んだ。
幸せな夢を見たくて、しゃくりあげながら呪文を唱える。
「ながきよの とをのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな……」
ママが唱えていた、いい夢を見るための呪文だった。