幸せの種
「……っ、ひっ……」
ピンク色のカーテンが見える。
良かった。あの家じゃない。あれは夢。もう戻ることのない過去。
泣きながら目覚めるのはもう、慣れっこになってしまった。
そういえば昨日、歯磨きしながら『ミーナちゃん一派』からさんざん嫌味を言われたんだった。
眠る前に嫌なことがあると、どうしても夢見が悪くなってしまう。
そして、悪い夢のほとんどがあの頃……ちしま学園に来る前のこと。
カウンセラーの高橋先生は、以前わたしに教えてくれた。
「それはね、トラウマって言うんだ。ちーちゃんは辛い体験をして、目には見えない傷を負ってここに来た。それを治すのが高橋先生の役目なんだけど、まだ力不足で治せない。ごめんね」
高橋先生は、ちっとも悪くないのにわたしに謝ってきた。
「高橋先生が悪いわけじゃないよ。自分で治せないわたしが悪いの」
全部わたしが悪いの。生まれてきてしまったことも、何もかも。
「ちーちゃん、待っていて。君のトラウマを処理できる方法を大学院で勉強してくるから」
そう言って、高橋先生は勉強しに行ってしまった。
その代わり、穂香先生が戻ってきてくれた。