幸せの種

千花が生まれて一年と少し経った頃、美麗は生活のために働き始めた。

夜、ぐっすり眠っている千花を母親に預け、繁華街にある煌びやかな店へ向かう。


本当は小さな娘を夜中預けて働くことには抵抗がある。

しかし、母親と義父から「いつまでも養ってやれる訳ではない」と言われ、冷遇されることに我慢できなかった。


美麗は出産後、家事一切を引き受ける代わりに自分と娘を実家で養ってもらっていた。

幸いにも千花は夜泣きが少なく、穏やかな性格のおとなしい娘だったので、あまり手がかからなかった。


――お金を貯めて、この家を出よう。もうすぐ千尋が専門学校を卒業して、地元に帰ってくるかも知れない。


高校を卒業してからすぐ出産した美麗にとって、家族以外の人との関わりは久しぶりだった。

この店にいる間だけは、家族からの冷たい視線を忘れられる。

千花の母親ではなく、ひとりの女性として見てもらえる。

育児に疲れ果てて自分のことは後回しにしていた反動もあり、美麗は自分磨きに熱中した。


元々、千尋や他の男子から「可愛い」と評されていた。

ママや先輩から教えられ、美麗の外見はどんどん磨き上げられた。

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