君を恋人にするにはもったいない。
学ランとブレザー

学ラン (司side)

プール授業の後の昼休み、俺は、はしゃぎ疲れてけだるい身体からにおう塩素臭に、気分を悪くしていた。

 頬杖をついて、このまま寝てしまおうか、とも考えていたとき、視線の端からクルクルと巻いた茶色い髪が出てきた。

 閉じかけたまぶたを、しぶしぶ本気を出して開ける。

「司、お弁当食べよー?」
「うん、腹減った」

 実希は、小さな弁当箱を俺の机に置く。
隣の空いている席から椅子を持ってきて、俺の真向かいに座った。

「プールだったもんねー」
「んー」
「髪濡れててカッコいーよ?」

 その言葉に、もうすでに俺達が弁当を食べている光景に見慣れているはずの野郎どもが反応した。

 実希からは見えないだろうが、どうせそうなることを分かってて言っている。

俺も男達の視線に気づかないフリをして、いつもより雑な動きで弁当箱を開けた。

 実希は、弁当に付属している短い箸で、少ないおかずをチビチビと食べる。もっとガツガツ食べてもいいのに、と思うのと同時に可愛いとも感じる。

 箸を持っている手は、もちろんジャージの袖で半分隠れているし、食べ物が運びこまれていく唇はピンク色のグロスでツヤツヤと光っている。
 
 実希の『女の子』の武器を全部使って男に媚びる、鼻につくようなあざとさが、俺は嫌いじゃなかった。

 計算高く意識的な実希のあざとさは、全ての男に平等に向けられる。しかし、少なくとも俺の前では、俺が1番に優先される。

 他の男たちに対する優越感、そして誰でも選び放題の女の子が俺を意識しているという、実希に対する優越感。

「実希、英語の先生キラーイ」
「俺も嫌いだよ」
「ねー。わかんないから聞いてるのにさぁ、『授業ちゃんと聞いてたんですか』って言ってきたのー。もう絶対質問しない」

 俺は、からあげを取ろうとした箸を止めて、言った。

「そういうの、無知の知って言うんだよ」

「え? 何ソレ?」

実希は、かわいい。可愛い俺の彼女だ。
でも、そんな彼女の前にしても、無意識に頭をよぎるのは、甘えを知らない、同居人のこと。


「……なんか、昨日、同居人が言ってた」

「プハッ! 同居人ってなーにぃ?
お母さんとかのこと?
てか、司も絶対分かってないじゃん!!」


ちなみに、俺が両親と暮らしていないことは、実希にも言っていない。
俺と、同居人である千秋との秘密だ。

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