羊だって、変るんです。
そんな凱を他所に、あっと言う間に中庭から廊下に戻り、バタバタと玄関に向う杏奈。

沓脱石から片方落ちてしまった下駄を丁寧に揃えて、自分も廊下に戻ると、蔵人の横に杏奈の姿があった。

「遠い所、良く来てくれたね」

「お邪魔しています」

挨拶をした後、居間に戻ると綾子がお茶を運んで来た所だった。

「綾子さんただいま。」

何時もは綾子を抱きしめて「ただいまの挨拶」をするのだが、両手が荷物一杯で抱きしめられないので、綾子に
抱きしめて貰えるように屈んでいた。

「お帰りなさい」

綾子も慣れたもので、そっと抱きしめて頬にキスをする。
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