昼休みが終わる前に。
【第6章】懐かしい味
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午前8時。サイドテーブルの上で鳴っているスマホのアラームを止めた。
ベッドに横たわったまま顔を窓の方に向けると、カーテンの向こうはどんよりとしていた。
雨は降り続けているようで、しんとした室内に、窓ガラスを打つ雨粒の音が響いている。
ベットから降り、カーテンの隙間から外を覗いた。まるで私の心を反映させたような灰色の雲が、空一面を覆っていた。
私は必要最低限の身支度だけ整え、おしゃれのかけらもない黒い長靴に足を突っ込んで、バス停に向かった。
太陽は出ていないが湿度が高く、蒸し暑い日だった。ちょっと歩いただけで身体中が汗ばむ。
約束していた時間よりも少し早かったけど、玄関のベルを鳴らすと、松下先生はすぐに出てきてくれた。