昼休みが終わる前に。


あの事故でみんなを失ってから、めっきりお菓子を作らなくなってしまったけど、将来は自分のスイーツショップを開きたいと本気で思っていたほどに、当時の私はお菓子作りが大好きだった。


自分の作ったお菓子を通して人を笑顔にできることが、何よりの喜びだった。


忘れていた感情を思い出し、胸が熱くなった。




「はいっ、リリ。あーんして」


唯人は食べかけのクッキーを、冗談っぽく私の口元に差し出してきた。


「なーんて、リリがこんなバカップルみたいなことしてくれるわけ——」


私は唯人の差し出したクッキーにかぶりついた。勢いよくかぶりつきすぎて、唇が唯人の指先に当たった。


どっと歓声が湧き起こった。誰かがヒューヒューと面白おかしく口笛を吹き鳴らした。


中学の頃の私は、人前で手を繋ぐことができないほど恥ずかしがり屋だった。


だからまさか私が本当に食べるとは思っていなかったようで、唯人は目を丸くしていた。



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