昼休みが終わる前に。
【第2章】十二年前の教室
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炎天下の中、自転車を漕ぐこと十五分。梢田中学に到着した。
昔は毎日あたりまえのように通っていた距離なのに、日頃の運動不足がたたってか、ひどく息が切れている。太ももが重い。
私は自転車を裏門の脇に止め、首筋を流れる汗をTシャツの襟で拭いながら新校舎の方に歩いていった。
玄関を入ると、『御用のある方は鳴らしてください』と書かれた札がベルと一緒に置かれていた。
電話で言われた通りにベルを鳴らすと、すらっと背の高い黒髪の女性が、スリッパを鳴らしながら現れた。もうすぐ還暦を迎えるらしいのだけれど、まだ老いの影はなく、実年齢よりもかなり若く見える。
私は彼女に向かって軽く頭を下げた。
「お久しぶりです、松下先生」
「久しぶり、凛々子さん」
松下先生は鼻筋の通った面長の顔に、柔らかな笑みを浮かべた。