昼休みが終わる前に。
「待って、リリ。これ以上は俺……」
唯人は私の身体を跳ねのけるようにして離した。走ったわけでもないのに頬が紅潮し、苦しそうに肩を上下させている。こちらを見上げる目が潤んでいる。
その表情が、
仕草が、
ますます無垢な子供に見えて。
唯人がいなくなってから、心の寂しさを埋めるために色んな男と身体を交えた私とは、滑稽なほど不釣り合いに感じた。
身体に生じた火照りが急速に冷めていく。
「本当にどうしたの? 今日のリリ、変だよ。こんなキス、どこで覚えたの」
「そりゃあ二十七年も生きてれば、キスの仕方ひとつくらい覚えるよ」
「二十七年……? ねぇ、さっきからリリの言ってる意味が全然わかんないよ。もしかして熱でもあるんじゃ……」
椅子から立ち上がりかけた唯人の唇に人差し指を当て、小さな子供をたしなめるように、しーっと言った。
「何も言わないで」
「えっ?」
私は唯人の肩に手を回し、額と額をくっつけた。目から溢れた涙が唯人の頬の上に滴り落ち、静かに流れていく。
「今だけ何も言わずに、ただ抱き締めてほしいの」