昼休みが終わる前に。
唯人は何か言おうとして口を開いた。だけど何も言わなかった。言葉を発する代わりに、その大きな両腕で私を抱き締めた。
体温を感じる。
匂いがする。
心臓の鼓動が聞こえる。
それらは唯人が確かに生きているという証なのに、気が遠くなりそうなほど悲しく感じた。
今、私がいるこの世界は、まぎれもなく現実。夢でもなければ、幻覚でもない。
だけど目の前にいるこの人は、現実世界の人間ではない。手を伸ばしても、決して触れることのできない……
遠い、遠い、過去の人間だった。
ふいに、私の背中を抱く手に力がこもった。あまりに強く抱き締めるものだから、息苦しくなった。
けれども、今の私にはそれが心地よかった。このまま大好きだった人の腕の中で、バラバラになって壊れてしまいたかった。