昼休みが終わる前に。


先生の目に、じわっと涙が浮かんだ。


「凛々子さんがそんな風に笑うの、すごく久しぶりに見たわ」

「十二年前にあの事故が遭ってから、私、笑うことを忘れてしまっていました。だけど今日この教室に入って、ある大切な人の言葉を思い出したんです」

「ある大切な人の言葉?」

「『幸せな出来事が笑顔を作るんじゃなくて、笑顔が幸せな出来事を引き寄せるんだ。笑顔でいることは、状況に関係なく選択することできる。すなわち幸せになるのも、不幸になるのも、自分で選択できるんだ』って」


それが過去の唯人が、未来の私に託した言葉なのだと思うと、込み上げてくるものがあった。


またしても泣き出しそうになった。だけど私は笑顔を絶やさなかった。


唯人の言葉を、


想いを、


無駄にしたくない。


「だから私はみんなの分もたくさん笑います。自分が不幸な人間なんだと嘆くのはもうやめて、幸せになる選択をします。天国にいるみんなもきっとそれを望んでいるから」

「凛々子さん……」


先生は胸に手を当て、ほっとしたように笑った。私は頭を下げた。



< 149 / 233 >

この作品をシェア

pagetop