昼休みが終わる前に。


公園の噴水が、無性に見たくなった。


私は寄りかかっていた幹から背中を浮かせ、西日の中を歩き出した。行き交う人々の間を縫うようにして、公園の奥へ進んでいく。


屋台がずらりと並んでいる芝生広場を抜けると、水しぶきを輝かせて高々と上がっている噴水が見えた。その周りには鳩が群がっている。


あの噴水の前で私は唯人に告白され、始まった。



『俺、リリのことが好きなんだ。もしリリも俺と同じ気持ちでいてくれてるなら、彼女になってほしい』



私の目をまっすぐ見つめてそう言った唯人の姿が、今でも鮮明に浮かぶ。


あれからもう十二年かぁ……


私は噴水の前のベンチに腰を下ろし、背後で水が噴き上がる音に耳を傾けながら、せわしなく行き交う人たちを眺めた。



ふと、人混みの中で立ち止まっている浴衣姿の男性と目が合った。




その瞬間、


からん、とどこからか、氷が鳴る音が聞こえたような気がした。


汗が滲むほどの暑さだというのに、その男の人の周りだけ、涼しい風が吹き渡っているみたいだった。



< 156 / 233 >

この作品をシェア

pagetop