昼休みが終わる前に。


「こんにちは、凛々子さん。楽しそうに話してるわね」


私の声が聞こえたのか、ベルを鳴らす前に松下先生が玄関から出てきた。


「あっ、先生。こんにちは」

「今日はいちだんと暑いわね」

「そうですね」


何言か世間話を交わしたあと、先生は手に持っていた旧校舎の鍵を鳴らした。


「行く?」

「お願いします」


先生の後ろを、私と信広さんは肩を並べて歩き出した。






旧校舎の裏口から中に入ると、信広さんは「うわぁ、懐かしい」と声を上げた。


彼が目に映るものすべてに対して、懐かしい、懐かしい、と繰り返すのを隣で聞きながら、3年1組の教室に向かう。


私の足は、教室の前でぴたりと止まった。それとは反対に、信広さんはすたすたと中に入っていった。教卓の前で立ち止まり、黙って室内を見渡している。


「凛々子さん、大丈夫?」


耳元で先生が囁いた。


私は信広さんの背中を見つめながらうなずいた。



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