昼休みが終わる前に。
「ねぇ、リリ」
唯人が私の腕を握った。長いまつげに縁取られたアーモンド型の目が、私を切なく包む。
「本当に行っちゃうの?」
「……うん」
「どこの国? アメリカ? イギリス?」
「私もよくわからない。聞いたことのない国の名前だったから」
「飛行機で何時間くらい?」
「丸一日乗ってても着かないくらい」
「そんなに遠いのか……。連絡は取れる?」
「たぶん難しいと思う」
「マジか……。行かずにここに残るっていうことはできないの?」
「できないみたい」
「行くしかないんだね」
「うん」
私は唇を噛み締めながらうなずいた。唯人は私から手を離し、額を押さえた。
「それにしても急だなぁ。昼休みが終わったらすぐに行かないといけないだなんて。俺、どうしたらいいか、わかんないや」
「唯人……」
「俺が一人前の大人だったら、今、この場でリリを引き止めるんだけどな。俺はまだまだひとりじゃ何もできないガキだから、『行くな』の一言が言えない。リリが一番大変なときに、そばにいてあげられない。でも……」