昼休みが終わる前に。


唯人は伏せていた顔を上げた。


「リリがどんなに遠くに行ったとしても、しばらく連絡が取れなくなったとしても、俺がリリのことを大好きだって気持ちは絶対に変わらないから。だから……だから……」


泣きながら無理に笑おうとするから、綺麗な顔がくしゃくしゃになってしまっている。


私は指輪の光る右手を伸ばし、その濡れた頬にそっと触れた。


その言葉を聞けただけで、もう十分だよ。


ありがとう、唯人。


こんな私を最後の最後まで大好きだと言ってくれて。


私も唯人のことが大好きだよ。


今まで何百回、何千回と触れたこの愛おしいぬくもりも、これで本当に最後。


だけどそこに悲しみや未練は生まれなかった。ただただ優しい気持ちで満たされている。


私たちは流れ落ちる涙を拭うことも忘れて、お互いを見つめ合った。言葉はなかった。何ひとつ。




沈黙が落ち、無慈悲に時を刻む秒針の音だけが教室に満ちた。


その音に吸い寄せられるようにして、みんなの視線が壁掛け時計に向けられた。私の視線も動いた。


潤んだ視界の中で、時計の針が12時57分を指しているのが見えた。



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