昼休みが終わる前に。
「お別れ、できたんですね」
信広さんは私の腕から手を離し、切れ長の目を柔らかく細めた。微笑んでいるのか、泣いているのか、わからないような表情だった。
「えっ……どうしてそれを……」
「凛々子さん、すごく晴れやかな笑顔で『さようなら、みんな』って言ってましたから」
胸に、何か熱い塊が突き上げてきた。
目の前にあるものにすがりたくなり、信広さんの胸に飛び込んだ。信広さんは私を両腕に抱きとめ、まるで壊れ物でも扱うようにそっと背中をさすった。
背中から伝わってくるのは、唯人とは違う優しさを持った手のひら。その手のひらを通して、信広さんのぬくもりが全身に染み渡ってくるようだった。
すごく安心する。
このままこの人の腕の中で、眠ってしまいたいくらい……
私は静かにまぶたを下ろした。閉じた目から、悲しみとは違う温かい涙が、一筋の線となってゆっくりと頬を流れ落ちていった。