昼休みが終わる前に。


失ったものばかりに目を向けるのではなく、今、目の前にあるものに全身全霊をかけて向き合い、大切にしよう。


今の私には見える。




未来を照らす光が。


命の輝きが。




この人と一緒に生きよう、と思った。


生きたい、と思った。




私は信広さんに歩み寄り、右手の薬指にはめていた指輪を外し、彼の指輪の隣にそっと置いた。


私たちは見つめ合い、微笑み合い、引き寄せられるようにしてお互いの手を取り合った。


そのときだった。




カチッ、カチッ……




秒針の音がして、私と信広さんは弾かれたように頭上を見上げた。


止まっていた時計が、ふたたび動き出している。


その針は決して後戻りすることなく、『今』という時を刻みながら、前へ、前へと進んでいる。




【完】



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