昼休みが終わる前に。
「ところで、凛々子。今日どこかに出かけたの? 自転車の位置が動いてたけど」
「あっ、うん。ちょっと中学に用があって」
「中学に用事?」
「松下先生から連絡があったの。来週の水曜日から旧校舎の取り壊しが始まるから、最後に校舎を見に来ないかって」
「あの校舎、とうとう取り壊されちゃうのね……」
「だから明日も校舎を見に行ってこようと思って」
「明日も行くの?」
「うん」
「……そう」
風が吹いたのか、窓の外で風鈴が軽やかな音を立てた。どこか遠くの方で、犬が吠えた。
「じゃあお母さん、夕飯食べてくるわね」
「あっ、待って」
「何?」
「あのね、今日私……」
過去に戻ってみんなに会ったの、と言おうとして、必死にその言葉を飲み込んだ。言ってはいけない、と思った。
「ん?」
「ごめん、やっぱりなんでもない」
私はお母さんに背中を向けたまま言った。
「そう?」
「うん。引き止めちゃってごめん」
「じゃあ……行くわね」
パタン、と扉が閉まる音がした。お母さんの足音が階段を下りていく。