昼休みが終わる前に。


「さっき俺に『昨日のこと覚えてないの?』って聞いたのは、そういう意味だったんだね」

「昨日も私、みんなに『十二年後から来た』って伝えたんだけど、パニックのあまり泣いてばかりで、ちゃんと伝えきれなかった」

「そうだったんだ。俺の記憶では、昨日のリリは至って普通だった。未来から来たっていう話はしてなかったし、泣くどころか、一日中楽しそうに笑ってた」

「そんな……」


唯人は私の手を握ったまま、みんなの顔を見渡した。


「誰か、リリが昨日『十二年後から来た』って言ったの、覚えてる人いる?」


みんなはちらっとお互いに顔を見合わせてから、ゆるゆると首を振った。


「なんで誰も覚えてないの……」


もはや誰を、何を責めているのか、自分自身でもわからなかった。唯人は下唇を噛み締め、心苦しそうに顔を伏せた。


やっぱり昨日のことは、全部なかったことになっている。


みんなの記憶は十二年前のままで、上書きされていない。



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