昼休みが終わる前に。


“現実”を見るのは怖い。


だけどそれ以上に、みんなの姿が見たい。


顔を上げ、窓の向こうに視線を伸ばした。空は暗く、霧のような小雨が降っている。


「入りますね」


私は震える足を大きく一歩、二歩、と前へ進めた。


すると——




キーンコーンカーンコーン……




チャイムが鳴り始めた。


私は顎に力を入れ、まっすぐ前を見据え続けた。頭上の壁掛け時計から放たれる強烈な光が教室全体を覆う。


束の間、何も見えなくなった。めまいがし、がくん、と身体が揺れた。






視界が開けると、空っぽだった教室が3年1組の生徒たちで溢れていた。あちこちから話し声や笑い声が聞こえてくる。


目だけ動かして、おそるおそる時間割黒板に書かれている日付を確認した。




【10月19日 木曜日】




やっぱり日付が一日進んでいる。


心臓の鼓動が速くなり、焦燥感が全身に広がっていった。



< 90 / 233 >

この作品をシェア

pagetop