昼休みが終わる前に。
「ちょっと、唯人くん!」
そこへ、智ちゃんがすっ飛んできた。
「凛々子ちゃん、なんで泣いてるの?」
「なんか俺が大事なことを忘れちゃってるみたいでさ」
「凛々子ちゃんがこんなに泣くなんて、よっぽど大事なことを忘れてるんだよ。今すぐそのしょぼい脳みそ振り絞って思い出して」
「しょぼい脳みそって……」
「いいから早く思い出して!」
智ちゃんは度の強いメガネの奥から、唯人に鋭い視線を投げつけた。
「早く思い出せって言われても……うーん……」
唯人はこめかみに人差し指を立ててうなった。
「凛々子、どうしたの?」
「大丈夫か?」
沙恵ちゃんと和也くんもこちらに走り寄ってきた。クラス全員が心配そうな眼差しで私を見ている。
「なんか唯人くんが、大事なことを忘れちゃってるみたいで……」
泣いている私の代わりに、智ちゃんが事情を説明した。
すると他のみんなも、早く思い出すように唯人を急かし始めた。
しかしいくら考えても思い出せないようで、唯人は心底申し訳なさそうな表情で私の顔を覗き込んだ。