俺にもっと溺れろよ。



校門付近にいる朔先輩。


一昨日の出来事が鮮明に浮かぶ。


諦めなきゃいけないのに......。



どうして、わたしの目はすぐに......捉えてしまうの。



......あっ、やばい。



わたし、朔先輩の下駄箱に入れなきゃいけないものあるんだった。


もっと、早く家を出るべきだった。


そしたら、朔先輩にも会わずにいられたのに──。



まだ、朔先輩はわたしに気づいてない。

こうなったら、走って追い抜く手しかない。


直接渡した方が早いのは、分かってる。

だけど、今のわたしには、直接渡す勇気はない。

きっと、泣いちゃうし、まともに話せないと思う。


......ごめんなさい。


そう思いながら、朔先輩を走って追い抜く。



「......あっ、おいっ」



わたしの耳に、朔先輩の言葉が響く。


どうして。前まではわたしのことなんか見つけても、話しかけてくれることなんかなかったのに。


どうして最近は、わたしのことをすぐ見つけてくれるんですか......?


嬉しいはずなのに、今は......。



────苦しいだけだよ。



大好きな声に振り返りそうになるけれど、それを必死に堪えて、正面玄関に向かう。


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