好きになった人は吸血鬼でした。-さくらの血契1-【一人称修正ver.】【完】
吸血鬼が主を得るとき――相手を吸血鬼とさせるとき――対象に恋させることが手っ取り早い。
体面上は主従関係になるが、恋した相手を死なせたくないと思うのも人の心というものだ。
自分の血で相手を生かすことが出来るなら、人間でなくなっても構わない――。
だから、真紅が自分をすきになってくれるのなら、それを利用して真紅を生涯の主に出来るかもしれない。
……そんな邪な思いが身の内を過って、しかし頭を振った。
駄目だ。真紅は普通の人間。吸血鬼になることはない。
そして俺は、この子を失いたくない。失いたくないから、離れていなければ――離れなければ。
憧れた少女。生きて恋して、自分じゃない生涯の伴侶を持って、その人との子を授かって、憧れた生き方をしてくれ。そして最期の時だけ、俺のもの。
最期に手をつないでいるのは、俺だ。
……それだけの約束があれば、俺は生きていけると思うんだ。
もしも今、自分の中にある感情に名前がつくのなら。
感情に名前がつく前に、ここを去らなければ。
……結ばれない多くの恋の中に、今、沈もう。