好きになった人は吸血鬼でした。-さくらの血契1-【一人称修正ver.】【完】
+++
この命というものは、本来はいらないもので。
だから、生きて来られたの。
トクトク……静かな音……波の音? 樹を渡る風? ……何だかとても、大きな自然のような音が耳に届く。
私は、朝、目が覚めるように瞼をあげた。
「ん、起きたか?」
誰かがいた。真上から声がする。その後ろに銀の月を背負っている。
焦点の合わない視界のせいか、光が、翼のように散漫している。
「……てんし……?」
「あ? 何寝惚けてんだ。俺がそんなもんに見えるか?」
見えるよ。
とっても綺麗ね、あなたは……。
「悪いけど、俺は鬼だ」
そう言って薄く開いた口元からこぼれる――鋭利な、牙。
あ―――