好きになった人は吸血鬼でした。-さくらの血契1-【一人称修正ver.】【完】
3 月と影
side白桜
「――白桜(はくおう)様」
柔らかい呼びかけに、私室の縁側で夜天を見上げていた俺は、つと振り返った。
「天音(あまね)」
着物を重ねて着、しかし動きやすいように細工されている意匠(いしょう)の、銀色の髪の女性は軽く面を伏せた。
「黒藤(くろと)様がいらっしゃっております。至急、白桜様に取り次ぐようにと」
「黒(くろ)か。すぐ行く」
黒藤――幼馴染である影小路(かげのこうじ)家の若の、月御門(つきみかど)へのその来訪の理由は薄ら気づいていた。
「白(はく)。母上が目覚める」
門まで出迎えた俺に、長身の黒い幼馴染は端的に告げた。
「紅緒(くれお)様が眠られてから十六年か……。所在は摑んでいるんだろう?」