見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
中に入ると、昔見た光景と同じものが目に入ってきた。入り口はロビーのような形で、階段と脇に大部屋やリビング、奥に廊下がある。テレビやマンガで見るような立派な屋敷そのものなのだ。
「あら、おかえり春乃。お友達もこんにちは〜」
入ってきたのを聞きつけたのか、俺たちに挨拶をしながら小走りでこちらへとやってくる。
「おいおい、坪倉のお母さんめちゃくちゃ美人じゃないか。こりゃ娘があれなのも頷けるわ」
慎一が小声で耳元で囁いてくる。
「あら、涼磨くん?そうよね、すごく久しぶりに見た気がするわ」
春乃のお母さんが俺の顔を見るとそんなことを言い出す。俺も当然覚えている。それにしても6年前とほとんど変わっていない気がする。それはただ単にしばらく見なかったから印象が薄れていたからだけなのかもしれないが、今見た瞬間パズルのピースが合ったように記憶が戻ってきた。
「どうも、お久しぶりです。春乃さんとは今同じ部活で良くしてもらってます」
俺は社交辞令というものではないが、今の自分と春乃の位置を簡潔に説明する。
「あなたたち昔はいつも遊んでたわよね〜。成長してまたこうやって遊ぶ中になったっていうのは私としてはとても喜ばしいことよ。どうぞごゆっくり〜」
その言葉を聞くと春乃が照れくさそうに顔を背ける。
「じゃ、じゃあいこっか!部屋は2階だからついて来て!」
少し駆け足になってその場を逃げるように階段を登っていったので、俺たちは春乃のお母さんに会釈をしつつその後を追うように小走りで後を追いかけた。
◇
「じゃあ入って〜」
向かった先は2階の奥側の部屋で、長い廊下はこの家がとても大きいということを改めて実感させた。小学生のときに感じた広大さはさすがに感じないが、ここまで広いとどっちもどっちだと感じてしまう。
「おお、こんな感じなのか」
慎一が声をあげたので俺も続いて中を見ると、飾りがいたるところにあり、その広い部屋に幾分映えている。
「これ1人でやったのか?大変だっただろ」
「いや、恵理ちゃんが手伝ってくれたの!昨日2人で飾りをつけたんだ」
俺たちは目線を琴吹に向ける。するといつものように顔を背けて胸を反らす様子が目に入って来たので、思わず吹き出してしまった。
(こうやってなんだかんだ言いつつ思いやりがあるのが琴吹の良いことなんだよな)
「何笑ってるの、越知。殺されたいのかしら?」
「い、いやなんでもないって!」
そんなことが時々感じられるから、どうしても憎めない。少し強く出たら弱い琴吹が出てきてしまいそうで怖いという気持ちも多少あるけれど。脳裏に焼き付いたあの悲しげな泣き顔はもう見たくない。
「じゃあ早速だけど始めよっか!恵理ちゃんと作った料理持ってくるね!ちょっと待ってて!」
そう言って琴吹と春乃は部屋を出ていくような仕草を見せたので、俺たちはそれを止めようとする。
「作ってくれたんだから、俺たちが持ってくるよ。食堂だよね?」
「あ、うん。でも....」
「いくらなんでもさせっぱなしは悪いからさ!」
「そこまで言うなら任せようかな...」
「ふーん...越知にしては気が利くわね。60点!」
低いな...とか内心思ってしまったことは絶対に口には出さない。出してしまったら俺の負けだ。そもそもこんなことに勝ち負けなどないのだろうが、罵倒されるのは忍びない。
「じゃ、そこで待ってて!」
俺たちはそう言って部屋を出ていった。
◇
台所には、沢山の食事が置いてあった。グラタンやピザ風に焼かれたパン類から、焼きそばやクッキーといった甘いものまで用意されていた。
「これ全部あいつらが作ったのか....?」
慎一が感心したように、そして信じられないといった表情で机上を見つめていた。
「春乃のお母さんは料理がめちゃくちゃ上手いから教えてもらいながら作ったのかもな」
「あーそういうことか....でもこれだけの量を作るなんて素直に感心したわ」
「正直俺もこんなに作ってくれてたことに驚いてるわ」
言葉通り、質、量ともに十二分で、驚きが隠せない。
そんな春乃たちの作った料理を両手に取り、部屋へと向かった。
◇
「何か祝うことがあるっていうわけじゃないけど、とりあえずメリークリスマス、だね!」
配膳が終わり、一通りが済んで落ち着いたところで、春乃がパンと手を叩いてそんな言葉を発した。
「「「メリークリスマス!」」」
皆で一斉にその言葉にかえす。色々あったが、こうやって机を囲ってパーティーをすることができるなんて思ってもいなかった。というよりも、またこの鎌倉の地に帰ってくることさえも想像していなかった。
慎一が待ってました!というように目の前の料理に食いつく様子を横目に、そんなことを思案する。
俺も食うか、と箸を手に取ると、春乃と琴吹がこちらを見つめていた。食べにくいなと感じながらも、気にしないフリをして目の前の料理をつまむ。
「これは美味いな!」
慎一がガツガツと食べながら俺へと問いかけつつ言う。
「ああ.....これは本当に美味しいな」
その本心からの一言が突き刺さったのか2人はガッツポーズを浮かべ、顔を向き合いながらハイタッチまでする。
(そんな喜ぶことか?というか慎一が美味い美味い散々言ってるじゃないか。そっちにも反応してやれよ。あー、あいつの美味いは軽すぎるのか。というかなんでも美味いって言いそうだ)
その言葉に安堵したのか、2人はようやく箸を持って料理へと腕を伸ばした。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
食べ終わって落ち着いたところで、全員で手を合わせてごちそうさまの号令(?)をかけた。そしてお待ちかねと言ったように、クリスマスの定番、プレゼント交換の時間がやってきた。
「プレゼント交換と言っても4人だけどね...」
「そこ!盛り下がるようなこと言わない!」
俺のボヤキにすぐさま反応する女子陣の面々。琴吹に至っては白い目を向けてきている。
(そこまでか?!)
女子の気持ちっていうのはよくわからないと内心思いながらも、持ってきたプレゼントを背負ってきたカバンから取り出す。
そしてそのプレゼントに番号をつけて、くじ引きで番号の紙を取って、自分のもらう品を決める。
「私は3!」
最初に引いたのは春乃で、3番の紙を取った。3番のプレゼントは俺の持ってきたものであった。
「あ、これって...」
「手袋。これからさらに冷え込むからどうかな、と思って」
「嬉しい。ありがとう!」
なんともありきたりで単純な思考から選んだものだったが、どうやら喜んでもらえたようでよかった。
「じゃあ次は私ね」
そう言って琴吹が引いた番号は4だった。4は慎一が持ってきたもので、中身はボールペンだった。高級そうな箱に入っていて、慎一が持ってきたとは思えないものだった。
「おいそこ、なんか変なことを考えただろ」
なぜわかった。敏感だなお前は。
「いや、なんか意外だなと思って」
「意外だなって...お前は俺がどんなもの持ってくると思ってたんだよ」
「さあ?」
その一言に慎一が溜息を吐く。
「確かに意外だけど、ありがたく使わせてもらうわ」
「お前まで...」
そして一斉に笑い声が上がった。
俺が引いたのは、2番で琴吹が持ってきたものだった。
「あ、マフラー...」
そこに入っていたのは黒地に赤系統の色の横線が何本か入っているマフラーだった。
「ま、まぁこれからもっと寒くなるから、実用的なものといえばマフラーだと思って買ってきたのよ」
買ってきた、と言っただろうか。このマフラーはどう見ても手作りだ。ところどころ解れているが、どこか温かい。このために一から作ったのだろうか?
「....」
俺は暫し琴吹の顔を見つめる。
「...琴吹、ありがとう。すっごく嬉しい。大切に使わせてもらうよ」
その言葉で一瞬パッと明るくなった表情は、すぐさま照れくさそうな仕草をしながら顔を背けていつも通りの琴吹へとマイナーチェンジを遂げる。
「そ、そう?大切に使いなさいよ!」
(素直になればもっといいのになぁ)
内心そんなことを思うが、それを言ってしまうと不機嫌にさせかねないのでギュッと口をつぐむ。
(でも本当に温かい。まさか琴吹が手づくりの品を持ってくるなんて微塵も思ってなかったけど)
腕を組む琴吹をチラ見しながら、俺は慎一と春乃の方へと向き合った。
最後は春乃から慎一で、これまた高級な感じを醸し出す定期入れだった。
プレゼント交換が終わると、自然にお開きという形になった。春乃は家に望遠鏡があるのだから見ようと考えていたようだが、あいにくの曇り空であえなく中止の運びとなった。
こうして、クリスマスパーティーは幕を閉じた。
「あら、おかえり春乃。お友達もこんにちは〜」
入ってきたのを聞きつけたのか、俺たちに挨拶をしながら小走りでこちらへとやってくる。
「おいおい、坪倉のお母さんめちゃくちゃ美人じゃないか。こりゃ娘があれなのも頷けるわ」
慎一が小声で耳元で囁いてくる。
「あら、涼磨くん?そうよね、すごく久しぶりに見た気がするわ」
春乃のお母さんが俺の顔を見るとそんなことを言い出す。俺も当然覚えている。それにしても6年前とほとんど変わっていない気がする。それはただ単にしばらく見なかったから印象が薄れていたからだけなのかもしれないが、今見た瞬間パズルのピースが合ったように記憶が戻ってきた。
「どうも、お久しぶりです。春乃さんとは今同じ部活で良くしてもらってます」
俺は社交辞令というものではないが、今の自分と春乃の位置を簡潔に説明する。
「あなたたち昔はいつも遊んでたわよね〜。成長してまたこうやって遊ぶ中になったっていうのは私としてはとても喜ばしいことよ。どうぞごゆっくり〜」
その言葉を聞くと春乃が照れくさそうに顔を背ける。
「じゃ、じゃあいこっか!部屋は2階だからついて来て!」
少し駆け足になってその場を逃げるように階段を登っていったので、俺たちは春乃のお母さんに会釈をしつつその後を追うように小走りで後を追いかけた。
◇
「じゃあ入って〜」
向かった先は2階の奥側の部屋で、長い廊下はこの家がとても大きいということを改めて実感させた。小学生のときに感じた広大さはさすがに感じないが、ここまで広いとどっちもどっちだと感じてしまう。
「おお、こんな感じなのか」
慎一が声をあげたので俺も続いて中を見ると、飾りがいたるところにあり、その広い部屋に幾分映えている。
「これ1人でやったのか?大変だっただろ」
「いや、恵理ちゃんが手伝ってくれたの!昨日2人で飾りをつけたんだ」
俺たちは目線を琴吹に向ける。するといつものように顔を背けて胸を反らす様子が目に入って来たので、思わず吹き出してしまった。
(こうやってなんだかんだ言いつつ思いやりがあるのが琴吹の良いことなんだよな)
「何笑ってるの、越知。殺されたいのかしら?」
「い、いやなんでもないって!」
そんなことが時々感じられるから、どうしても憎めない。少し強く出たら弱い琴吹が出てきてしまいそうで怖いという気持ちも多少あるけれど。脳裏に焼き付いたあの悲しげな泣き顔はもう見たくない。
「じゃあ早速だけど始めよっか!恵理ちゃんと作った料理持ってくるね!ちょっと待ってて!」
そう言って琴吹と春乃は部屋を出ていくような仕草を見せたので、俺たちはそれを止めようとする。
「作ってくれたんだから、俺たちが持ってくるよ。食堂だよね?」
「あ、うん。でも....」
「いくらなんでもさせっぱなしは悪いからさ!」
「そこまで言うなら任せようかな...」
「ふーん...越知にしては気が利くわね。60点!」
低いな...とか内心思ってしまったことは絶対に口には出さない。出してしまったら俺の負けだ。そもそもこんなことに勝ち負けなどないのだろうが、罵倒されるのは忍びない。
「じゃ、そこで待ってて!」
俺たちはそう言って部屋を出ていった。
◇
台所には、沢山の食事が置いてあった。グラタンやピザ風に焼かれたパン類から、焼きそばやクッキーといった甘いものまで用意されていた。
「これ全部あいつらが作ったのか....?」
慎一が感心したように、そして信じられないといった表情で机上を見つめていた。
「春乃のお母さんは料理がめちゃくちゃ上手いから教えてもらいながら作ったのかもな」
「あーそういうことか....でもこれだけの量を作るなんて素直に感心したわ」
「正直俺もこんなに作ってくれてたことに驚いてるわ」
言葉通り、質、量ともに十二分で、驚きが隠せない。
そんな春乃たちの作った料理を両手に取り、部屋へと向かった。
◇
「何か祝うことがあるっていうわけじゃないけど、とりあえずメリークリスマス、だね!」
配膳が終わり、一通りが済んで落ち着いたところで、春乃がパンと手を叩いてそんな言葉を発した。
「「「メリークリスマス!」」」
皆で一斉にその言葉にかえす。色々あったが、こうやって机を囲ってパーティーをすることができるなんて思ってもいなかった。というよりも、またこの鎌倉の地に帰ってくることさえも想像していなかった。
慎一が待ってました!というように目の前の料理に食いつく様子を横目に、そんなことを思案する。
俺も食うか、と箸を手に取ると、春乃と琴吹がこちらを見つめていた。食べにくいなと感じながらも、気にしないフリをして目の前の料理をつまむ。
「これは美味いな!」
慎一がガツガツと食べながら俺へと問いかけつつ言う。
「ああ.....これは本当に美味しいな」
その本心からの一言が突き刺さったのか2人はガッツポーズを浮かべ、顔を向き合いながらハイタッチまでする。
(そんな喜ぶことか?というか慎一が美味い美味い散々言ってるじゃないか。そっちにも反応してやれよ。あー、あいつの美味いは軽すぎるのか。というかなんでも美味いって言いそうだ)
その言葉に安堵したのか、2人はようやく箸を持って料理へと腕を伸ばした。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
食べ終わって落ち着いたところで、全員で手を合わせてごちそうさまの号令(?)をかけた。そしてお待ちかねと言ったように、クリスマスの定番、プレゼント交換の時間がやってきた。
「プレゼント交換と言っても4人だけどね...」
「そこ!盛り下がるようなこと言わない!」
俺のボヤキにすぐさま反応する女子陣の面々。琴吹に至っては白い目を向けてきている。
(そこまでか?!)
女子の気持ちっていうのはよくわからないと内心思いながらも、持ってきたプレゼントを背負ってきたカバンから取り出す。
そしてそのプレゼントに番号をつけて、くじ引きで番号の紙を取って、自分のもらう品を決める。
「私は3!」
最初に引いたのは春乃で、3番の紙を取った。3番のプレゼントは俺の持ってきたものであった。
「あ、これって...」
「手袋。これからさらに冷え込むからどうかな、と思って」
「嬉しい。ありがとう!」
なんともありきたりで単純な思考から選んだものだったが、どうやら喜んでもらえたようでよかった。
「じゃあ次は私ね」
そう言って琴吹が引いた番号は4だった。4は慎一が持ってきたもので、中身はボールペンだった。高級そうな箱に入っていて、慎一が持ってきたとは思えないものだった。
「おいそこ、なんか変なことを考えただろ」
なぜわかった。敏感だなお前は。
「いや、なんか意外だなと思って」
「意外だなって...お前は俺がどんなもの持ってくると思ってたんだよ」
「さあ?」
その一言に慎一が溜息を吐く。
「確かに意外だけど、ありがたく使わせてもらうわ」
「お前まで...」
そして一斉に笑い声が上がった。
俺が引いたのは、2番で琴吹が持ってきたものだった。
「あ、マフラー...」
そこに入っていたのは黒地に赤系統の色の横線が何本か入っているマフラーだった。
「ま、まぁこれからもっと寒くなるから、実用的なものといえばマフラーだと思って買ってきたのよ」
買ってきた、と言っただろうか。このマフラーはどう見ても手作りだ。ところどころ解れているが、どこか温かい。このために一から作ったのだろうか?
「....」
俺は暫し琴吹の顔を見つめる。
「...琴吹、ありがとう。すっごく嬉しい。大切に使わせてもらうよ」
その言葉で一瞬パッと明るくなった表情は、すぐさま照れくさそうな仕草をしながら顔を背けていつも通りの琴吹へとマイナーチェンジを遂げる。
「そ、そう?大切に使いなさいよ!」
(素直になればもっといいのになぁ)
内心そんなことを思うが、それを言ってしまうと不機嫌にさせかねないのでギュッと口をつぐむ。
(でも本当に温かい。まさか琴吹が手づくりの品を持ってくるなんて微塵も思ってなかったけど)
腕を組む琴吹をチラ見しながら、俺は慎一と春乃の方へと向き合った。
最後は春乃から慎一で、これまた高級な感じを醸し出す定期入れだった。
プレゼント交換が終わると、自然にお開きという形になった。春乃は家に望遠鏡があるのだから見ようと考えていたようだが、あいにくの曇り空であえなく中止の運びとなった。
こうして、クリスマスパーティーは幕を閉じた。