見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
出会い〜春乃視点〜
坪倉春乃は地元でも有名な坪倉家の長女として生まれた。坪倉家は昔から名のあった豪商の家系なのだ。幼い頃から父から過保護な生活を強いられ、箱入り娘と呼ばれてもおかしくなかった。幼稚園には行かず、家で家庭教師をつけられ、色々なことに手を伸ばした。
小学校に入っても父の過保護は弱まることを知らず、登下校は車で送り迎えがやってきて、心休まる時間は学校の時間だけであった。グループ意識が強い小学生は、他の人とは一線を画し、変わった存在として見られてしまい、クラスで孤立してしまった。小学校に入った直後は年齢的なものもありそれなりの関係を築いていたが、それは小3に入ってから仲間外れというわけではないが、誰にも話しかけられなくなった。高学年に入ると、それはさらに顕著になった。
しかしそんな時に出会ったのが星だった。祖父からプレゼントされた顕微鏡は暗い出来事が長く続き、まだ小学生である春乃にとって精神的にも大きくすり減らすような事がであったため、その目に移る星空はより一層の輝きを放っていた。
「なにこれ...世の中にこんなものがあったなんて!とても綺麗!」
お淑やかに、という教育を受けていてこの頃は口調がお嬢様じみていた。しかし、この時ばかりは感動よりも興奮が勝ち、思わずそんな声を出してしまった。
暗い気持ちを晴らしてくれる。星にはそんな力があるのではないだろうか?春乃はそう考えて目に移るその景色をこのままにしまいというようになぜか絵を描くことにしたのだ。
もちろん春乃は絵など保飛んだ書いたことはなかった。しかし、その目に映る星空は、絵で描いて永遠に残しておきたいと思えるほど美しく、そしてとても明るい光景であったのだ。
そう思って一旦コテージからメインハウスへと紙と絵の具と取りに行った。そしてその帰り、運命が再び舞い降りた。
唐突に目の前に姿を現したのは、春乃と同い年くらいの少年だった。
(あれ...どこかで見た事があるような...)
そう思って頭の中で似た顔がいなかったか探し始める。
(あ、そうだ...確か隣のクラスの...越知涼磨くん。そういえば一度同じクラスになったんだった。)
どうしてこんなところにいるのか?そう話しかけようと思い近づくと、越知くんの目からは大粒の涙が流れていた。顔は俯いており、こちらが近づいててきていることは全く気づかないようだ。春乃はかなり心配な表情を浮かべ、近づいてあと3、4歩くらいの距離になったところで話しかけた。
「あ、あなたは...?」
越知くんはその声にハッとなったように顔をパッとあげる。
「.....え?」
そして驚いたようにこちらを見つめて、僅かの時。
「き、君は?あっ....」
自らが泣いている姿を見てゴシゴシと涙を拭きはじめる。こんな姿を見せるのは情けない、というように思ったのだろうか?そんなこと気にする必要はないのに。
目と目をじっと合わすと、やはり越知涼磨くんで間違いなかった。しかし聞かないわけにもいかないので、一応聞いてみた。
「....あなたは確か同じクラスの?」
「あ、え?ど、同級生...?」
越知くんは驚いたように目を見開き、そして急にいい姿勢へと直った。
この反応だとおそらく正解だと勝手に思い、私は正直に問いかける。
「やっぱりそうだ.....なんでこんなところにいるの?」
私の家に、と言いかけたが、彼が私の家を知っているはずがないのだから、何か事情があるのだろうと思い口を噤んだ。
「あ、あれ...?」
すると越知くんは急に周りを見渡し始める。そしてなにを思った胸を撫で下ろして言った。
「わ、分かんない...気づいたらここに....」
やはり何か事情があるようで、なにもわからずこの場に迷い込んだようだ。しかも大泣きしていたのを見ると、よほど複雑な事情があり、かつ悲しい気持ちへと沈んでいるのだろう。
「ここウチに繋がる裏道なんだ。よくこんなところ見つけて歩いてきたわね...」
普通ならこんなところに迷い込むはずがない。周りを全く気にせず思うままに足を進めてきたというのだろう。
「...何か嫌なことでもあったの?」
それまで聞くのを憚られていたが、こうなったら聞かないわけにもいかず、そう問いかける。そんな問いかけに対して越知くんはこれまた驚いた表情を浮かべて言う。
「な、なんで分かるの...?」
わからないわけがない。まだ小学生の私であっても察することができたくらいだ。
「そりゃわかるよ。だってあなた、ひどく不安そうな顔をしているじゃない。それに加えてその姿。嫌なことがあって逃げてきたのね」
「そ、そこまで....」
もう見慣れた驚きの顔。ここまで表情豊かなのは良いことなのかもしれないが。
「やっぱりそうなのね。..........そうね、じゃあ少し付いてきてくれる?」
私は先程までの越知くんの様子と、今のこの状況から鑑みて、望遠鏡で星空見せようという考えに至った。そして先導してコテージへと向かう。
少し歩いた先。いつもの見慣れた光景だが、今日初めて星を見たという事実に加え、まさか客人をこの場に連れてくるなんて全く思ってもいなかった。
「ここは...?」
目の前のコテージに越知くんは少し怪訝そうな表情を浮かべながら問いかけというように私に話しかけてくる。
「ここは私が嫌なことがあったらいつも来る場所なの。中へ入って?」
もちろん今日知ったことだ。でもこう言っておいた方が良いのではないか、と直感がそんな言葉を紡いだのだ。
「う、うん」
中に入ると、越知くんは周りを見渡しながら少しずつ足を進める。
「ほら、あそこを見て?」
私は望遠鏡が置いてある方を指差して、招き入れようと手で軽く誘導する。
「あれって...」
「そう、望遠鏡よ。去年の誕生日に買ってもらったの」
もちろん嘘だ。買ってもらったのはつい数日前だ。いつもここに来ると言った手前、こういった嘘をつかざるを得ない。
「す、すごいね...あんな望遠鏡見たことないよ」
そして私はベランダへと出るように促す。
その後を進むと、少し冷たい風が体に吹き付けた。少し震えつつもセットした望遠鏡を確かめにいく。細かな調整をして、見る準備を整えた。
「よしっ、これで良いかな」
越知くんはその声に首を軽く傾げながら反応する。
「ほら、覗いてみて?」
セットした望遠鏡を除くように促すと、それに従って目をその中に近づけていった。
「うわぁ....!」
私がさっき出したような声。そのまま映したような驚きの声。それは星空に感動して目を光らせた自分そのものだった。
「すごい....すごいよ!こんなに...こんなに綺麗なものがあるなんて!」
越智くんは目を光らせてそう言いながらこちらを向く。
「こんなに綺麗な空を見ると悩んでいたことがちっぽけに感じられるでしょ?」
その言葉にすぐ反応して深く何度も頷いて言う。
「うん...!」
そして何で悩んでいるのか、私が力になれることかもしれないと問いかけた。
「あなたがなんで悩んでいるのか教えて?越知くん」
「あっ...そういえば君の名前...」
知らなかったと言う感じに言うが、おそらく顔は分かっていただろう。何度も顔は合わせている。話したことはなかったけれども。
「私?私は坪倉春乃。春乃でいいよ」
もったいぶる必要など微塵もない。私は正直に名前を言う。
「春乃....じゃあ俺のことも涼磨でいいよ!」
「そう、じゃあそう呼ばせてもらうね。それで、なんで悩んでいるの?」
「あ、うん」
そうして越知く.....涼磨はここに至った顛末を話し始めた。
「.......そっか。大変なんだね。じゃあさ。時々ここに来ない?私と一緒に星を見に。どう...かな?」
事情を聞いたところ、祖父と喧嘩のようなものをして家出して来てしまったようだ。その話題で少し暗くなりつつあった涼磨の顔を見かねてこれからもウチで星を見ないかと誘った。
もちろん断られるかもしれない。しかしそんな悩みは杞憂で、涼磨は即答した。
「うん... じゃあ時々来るよ!君と一緒に星を見るために!そうすればどんな嫌なことがあっても乗り越えられる気がするんだ!」
「ほ、ホントに?嘘じゃないの?」
私はその答えに正直驚き、少し戸惑いの情を声に乗せてしまった。
「君が言い出したんだろ?当たり前じゃないか」
「そ、そうね。私、あんまり人と遊ばせてもらえないから... 家内が過保護でね、あんまり外に一人で出すのを好まないの。そういう何かに囚われているって少し私たち似ているのかもね」
正直にそんなことを思い、そのまま口に出してしまった。案外同じようなことで悩んでいるのかもしれない、と。
そしてそんな言葉に私達は互いに笑いあった。新たなストーリーがスタートした。率直にそんな風に思っていた。
小学校に入っても父の過保護は弱まることを知らず、登下校は車で送り迎えがやってきて、心休まる時間は学校の時間だけであった。グループ意識が強い小学生は、他の人とは一線を画し、変わった存在として見られてしまい、クラスで孤立してしまった。小学校に入った直後は年齢的なものもありそれなりの関係を築いていたが、それは小3に入ってから仲間外れというわけではないが、誰にも話しかけられなくなった。高学年に入ると、それはさらに顕著になった。
しかしそんな時に出会ったのが星だった。祖父からプレゼントされた顕微鏡は暗い出来事が長く続き、まだ小学生である春乃にとって精神的にも大きくすり減らすような事がであったため、その目に移る星空はより一層の輝きを放っていた。
「なにこれ...世の中にこんなものがあったなんて!とても綺麗!」
お淑やかに、という教育を受けていてこの頃は口調がお嬢様じみていた。しかし、この時ばかりは感動よりも興奮が勝ち、思わずそんな声を出してしまった。
暗い気持ちを晴らしてくれる。星にはそんな力があるのではないだろうか?春乃はそう考えて目に移るその景色をこのままにしまいというようになぜか絵を描くことにしたのだ。
もちろん春乃は絵など保飛んだ書いたことはなかった。しかし、その目に映る星空は、絵で描いて永遠に残しておきたいと思えるほど美しく、そしてとても明るい光景であったのだ。
そう思って一旦コテージからメインハウスへと紙と絵の具と取りに行った。そしてその帰り、運命が再び舞い降りた。
唐突に目の前に姿を現したのは、春乃と同い年くらいの少年だった。
(あれ...どこかで見た事があるような...)
そう思って頭の中で似た顔がいなかったか探し始める。
(あ、そうだ...確か隣のクラスの...越知涼磨くん。そういえば一度同じクラスになったんだった。)
どうしてこんなところにいるのか?そう話しかけようと思い近づくと、越知くんの目からは大粒の涙が流れていた。顔は俯いており、こちらが近づいててきていることは全く気づかないようだ。春乃はかなり心配な表情を浮かべ、近づいてあと3、4歩くらいの距離になったところで話しかけた。
「あ、あなたは...?」
越知くんはその声にハッとなったように顔をパッとあげる。
「.....え?」
そして驚いたようにこちらを見つめて、僅かの時。
「き、君は?あっ....」
自らが泣いている姿を見てゴシゴシと涙を拭きはじめる。こんな姿を見せるのは情けない、というように思ったのだろうか?そんなこと気にする必要はないのに。
目と目をじっと合わすと、やはり越知涼磨くんで間違いなかった。しかし聞かないわけにもいかないので、一応聞いてみた。
「....あなたは確か同じクラスの?」
「あ、え?ど、同級生...?」
越知くんは驚いたように目を見開き、そして急にいい姿勢へと直った。
この反応だとおそらく正解だと勝手に思い、私は正直に問いかける。
「やっぱりそうだ.....なんでこんなところにいるの?」
私の家に、と言いかけたが、彼が私の家を知っているはずがないのだから、何か事情があるのだろうと思い口を噤んだ。
「あ、あれ...?」
すると越知くんは急に周りを見渡し始める。そしてなにを思った胸を撫で下ろして言った。
「わ、分かんない...気づいたらここに....」
やはり何か事情があるようで、なにもわからずこの場に迷い込んだようだ。しかも大泣きしていたのを見ると、よほど複雑な事情があり、かつ悲しい気持ちへと沈んでいるのだろう。
「ここウチに繋がる裏道なんだ。よくこんなところ見つけて歩いてきたわね...」
普通ならこんなところに迷い込むはずがない。周りを全く気にせず思うままに足を進めてきたというのだろう。
「...何か嫌なことでもあったの?」
それまで聞くのを憚られていたが、こうなったら聞かないわけにもいかず、そう問いかける。そんな問いかけに対して越知くんはこれまた驚いた表情を浮かべて言う。
「な、なんで分かるの...?」
わからないわけがない。まだ小学生の私であっても察することができたくらいだ。
「そりゃわかるよ。だってあなた、ひどく不安そうな顔をしているじゃない。それに加えてその姿。嫌なことがあって逃げてきたのね」
「そ、そこまで....」
もう見慣れた驚きの顔。ここまで表情豊かなのは良いことなのかもしれないが。
「やっぱりそうなのね。..........そうね、じゃあ少し付いてきてくれる?」
私は先程までの越知くんの様子と、今のこの状況から鑑みて、望遠鏡で星空見せようという考えに至った。そして先導してコテージへと向かう。
少し歩いた先。いつもの見慣れた光景だが、今日初めて星を見たという事実に加え、まさか客人をこの場に連れてくるなんて全く思ってもいなかった。
「ここは...?」
目の前のコテージに越知くんは少し怪訝そうな表情を浮かべながら問いかけというように私に話しかけてくる。
「ここは私が嫌なことがあったらいつも来る場所なの。中へ入って?」
もちろん今日知ったことだ。でもこう言っておいた方が良いのではないか、と直感がそんな言葉を紡いだのだ。
「う、うん」
中に入ると、越知くんは周りを見渡しながら少しずつ足を進める。
「ほら、あそこを見て?」
私は望遠鏡が置いてある方を指差して、招き入れようと手で軽く誘導する。
「あれって...」
「そう、望遠鏡よ。去年の誕生日に買ってもらったの」
もちろん嘘だ。買ってもらったのはつい数日前だ。いつもここに来ると言った手前、こういった嘘をつかざるを得ない。
「す、すごいね...あんな望遠鏡見たことないよ」
そして私はベランダへと出るように促す。
その後を進むと、少し冷たい風が体に吹き付けた。少し震えつつもセットした望遠鏡を確かめにいく。細かな調整をして、見る準備を整えた。
「よしっ、これで良いかな」
越知くんはその声に首を軽く傾げながら反応する。
「ほら、覗いてみて?」
セットした望遠鏡を除くように促すと、それに従って目をその中に近づけていった。
「うわぁ....!」
私がさっき出したような声。そのまま映したような驚きの声。それは星空に感動して目を光らせた自分そのものだった。
「すごい....すごいよ!こんなに...こんなに綺麗なものがあるなんて!」
越智くんは目を光らせてそう言いながらこちらを向く。
「こんなに綺麗な空を見ると悩んでいたことがちっぽけに感じられるでしょ?」
その言葉にすぐ反応して深く何度も頷いて言う。
「うん...!」
そして何で悩んでいるのか、私が力になれることかもしれないと問いかけた。
「あなたがなんで悩んでいるのか教えて?越知くん」
「あっ...そういえば君の名前...」
知らなかったと言う感じに言うが、おそらく顔は分かっていただろう。何度も顔は合わせている。話したことはなかったけれども。
「私?私は坪倉春乃。春乃でいいよ」
もったいぶる必要など微塵もない。私は正直に名前を言う。
「春乃....じゃあ俺のことも涼磨でいいよ!」
「そう、じゃあそう呼ばせてもらうね。それで、なんで悩んでいるの?」
「あ、うん」
そうして越知く.....涼磨はここに至った顛末を話し始めた。
「.......そっか。大変なんだね。じゃあさ。時々ここに来ない?私と一緒に星を見に。どう...かな?」
事情を聞いたところ、祖父と喧嘩のようなものをして家出して来てしまったようだ。その話題で少し暗くなりつつあった涼磨の顔を見かねてこれからもウチで星を見ないかと誘った。
もちろん断られるかもしれない。しかしそんな悩みは杞憂で、涼磨は即答した。
「うん... じゃあ時々来るよ!君と一緒に星を見るために!そうすればどんな嫌なことがあっても乗り越えられる気がするんだ!」
「ほ、ホントに?嘘じゃないの?」
私はその答えに正直驚き、少し戸惑いの情を声に乗せてしまった。
「君が言い出したんだろ?当たり前じゃないか」
「そ、そうね。私、あんまり人と遊ばせてもらえないから... 家内が過保護でね、あんまり外に一人で出すのを好まないの。そういう何かに囚われているって少し私たち似ているのかもね」
正直にそんなことを思い、そのまま口に出してしまった。案外同じようなことで悩んでいるのかもしれない、と。
そしてそんな言葉に私達は互いに笑いあった。新たなストーリーがスタートした。率直にそんな風に思っていた。