見上げてごらん、夜空に輝くあの星を
極寒の3学期が始まって早2ヶ月。3月の中旬から下旬にかけて行われる学年末試験を間近に控えながらも、もう一つの学年イベントである武道・ダンス大会に向けてクラスの面々は盛り上がっていた。主に一部においてであるが。

女子が行うダンス大会は、教員が採点者となってクラス対抗で点数の良し悪しによって競い合うというのだ。つまり完全に教員の主観である。クラス対抗もなにも先生の目にどう映るかが勝利のカギとなってくるのである。ダンス大会に参加するのはクラス女子全員であり、細かいメンバー決めなどは行う必要はない。それは当然で、ダンスの場合はこれが一番大きな評価に繋がるのだという。この時代に成績はみんな同じ、悪かったら連帯責任みたいなスタイルは古いのではないだろうか?


「岡田、柔道の方は決まったぞ」

男子は柔道と拳法の2グループに分かれ、どちらもトーナメントがあるのだ。この2つは完全に別々で、メンバーも別々で選出しなければならないのだという。柔道も拳法も3人ずつの選出で、そのメンバーがクラスを代表してトーナメントに参加するのだという。なんだかんだで俺はのらりくらりと授業を消化してきたから、全く関係のないことだがな。


「そうか、こっちもほぼ決まったぞ。俺、小松、原木の3人だ」

岡田、小松、原木。この3人が拳法のクラス代表としてエントリーすることに誰も異議はなかった。その3人はクラスでも一番図体がデカい3人で、文句など出るはずもなかった。

「あとは補欠だね。だれか1人決めなくちゃいけない」

「補欠か...他に適任なんているか?」

岡田はクラス全体へと見渡すように目を向ける。俺はその目にロックオンされないように肩を竦めて椅子でひたすら固まる。

「あっ、そういえば越知はどうだ?あいつかなり基礎はできてたように見えたし、補欠ならいいんじゃないか?」

俺は一瞬耳を疑った。他に上手そうなやつたくさんいるだろう!俺は目立ちたくないんだよ。たとえ補欠でも要らぬ心労はできればかかって欲しくないものだ。

「え....ちょっ」

しかし口が思うように動かず、言い篭ってしまう。

「良かったじゃないか!出ることになったら頑張れよ!」

いきなり指名を受けた俺に対して、慎一が嫌味っぽく(自覚はないだろうが)言ってくる。

(俺がどうしたいのか全然わかってないじゃないか...出来れば断りたい案件なんだよ!)

小声でも言いたくなるが、岡田の視線に根負けして、気づかれないように息を吐きながら前を向く。

「よし、じゃあ決まりだな!三田、これに書いておいてくれ」

柔道のチームリーダー(?)である三田は、俺の反応を見ることなく紙に記名していく。しかもボールペンで。

頼めばいくらでも出してくれる類のものなのだろうが、流石にそこまでしてもらうのは忍びない。

そうこうしているウチにHRが終わるチャイムが鳴り、そのまま流れで俺が補欠の任を受けることが強制的に決定してしまった。










学年末試験の1週間前を直前に控えた3月上旬、武道・ダンス大会が決行されることとなった。これはクラス対抗だが、成績にはほぼ関係ない(選手を除く)ので、男子の大半はそこまで関心を持っているわけではなかった。

中には学年末考査のために学年行事を無視していい点を稼ぐために勉強をする生徒もいた。

ダンス大会は正直俺も興味を持っているわけではない。ダンス大会と武道大会は別々の時間帯で行われるため、男子は女子を、女子は男子を見るということになるのだ。女子のダンスとなれば多少興味を持つものもいるだろうが、そこまで興味を持たない俺にとってそれはただの要素の1つに過ぎなかった。


ダンス大会といってもジャンルはクラスに一任されており、女子がやりたい曲を選べばいいということで、なおさら採点が難しいのではないかと思ったのは内緒の話だ。ダンス大会は1組から順に演技を行なっていくだけで、午前中に終わってしまった。優勝は2組で、天文部のメンバーはいない組であったため、個人的にはただただ冷める結果となったのであった。

午後からは武道大会が行われるのだが、男子は女子よりも生徒数が多いうえに、種目が分かれているということもあって準決勝、決勝は次の日に持ち越しというスケジュールが組まれていた。

(まぁどうせ補欠なんて出番は絶対にないだろうから関係のないことだけどな)

補欠は出ないと心ではわかっていても、微妙な感覚をずっと味わうこととなるため、正直嫌な感じであった。


ダンス大会の表彰が終わり、食事の時間を経たのちに、午後に武道大会が開催される運びとなった。

「それでは、クラス男子対抗の武道大会の開幕です。頑張ってください!」

ダンス大会で踊っていたであろう女子生徒がアナウンスを行い、男子はその会場へと向かう。ダンス大会は体育館であったが、武道大会はもちろん道場で行われるため、皆移動をしていた。道場といっても観戦スペースがなぜか設けられており、ギャラリーまで設置されていた。公立なのに金をかけているなと思うが、口には出さない。

武道大会は一回戦からクラス対抗で行われる。一年生は1年1組から1年8組まで8クラスあり、その中で予選を行うというのだ。柔道、拳法ともに予選で敗れた場合ただ暇な時間ができるだけなのである。

これが選手でない完全なギャラリーとして徹することができる立場であれば良かったのだが、あいにく俺は補欠という意味のわからないポジションに身を置くこととなったため、全て見届けなくてはいけないのだ。本心を言うと、面倒くさいのだ。

さて、結果はといえば、俺たち4組は拳法の豪華なメンツに比べて、体格的にも力的にも比較的脆弱なメンバーが集まっていたといえる柔道は初戦で敗退してしまった。だが、拳法は見事勝利し、準決勝への切符をつかんだ。準決勝を見ることが出来るだけ、自分のクラスが出ない試合をずっと見させられるよりも何十倍もマシだろう。

準決勝に駒を進めることとなった俺たち4組は、2組を相手にすることが決まった。他に予選を勝ち抜いたのは5組と8組だった。5組は琴吹のクラスだから、もし決勝まで進めることができたらそれなりに面白く観れるかもしれない。そんな想像を胸にしつつ、この日は解散となった。
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